GAFA&MSとその次に注目される14の企業の経営者インタビューでまとめられた本。
フランスのクーリエ・ジャポンが編集している。
引退したジェフ・ベゾスやテスラ→スペースXのイーロン・マスクらが興味を示す宇宙計画。MSのナデラは、プラットフォーマー規制問題とAIについて語り、アップルのクックは自社はプラットフォーマー企業ではないということと、プライバシー重視しているという姿勢を示す。
GAFAについては他の本でも書いていたり、語っていたりすることばかりなので、とくに新しい情報はないように思うが、こうやって世界を牽引する企業経営者の言葉を並べて読むと、今後10年くらいがどのように展開していくのがおぼろげながらわかる。
テクノロジーによるイノベーションが起き、社会がその技術革新によって劇的に変わっていく、というようなことはないだろう。もちろんイノベーションによる変化はあるが、市場の動向や各社のマーケティング戦略の争いの結果、ごてごてした現実が描かれる世界なんだろう。

そんななかでドイツのベンチャー企業「ビオンテック」のオズレム・トゥレシとウグル・サヒンというトルコ系ドイツ人夫妻が登場している。二人とも研究者であるサヒンとトゥレシは新型コロナのmRNA系のワクチンを短期間で開発したことで一躍有名になった。
しかし、ベンチャー企業の経営者である二人にドイツという国は冷たいようだ。
ドイツという国はリスクを負ってイノベーションを起こすことに、ある種の抵抗があるという。イノベーションよりも仕上げを完璧にすることを優先するのだとか。
誰かが新型車を開発した例で説明しているが、もし、その車にホイールキャップが欠けていたら、ドイツではみんながそのホイールキャップの文句ばかり言って新発明の部分については語られないとか。
でも、この話、日本で笑えるだろうか。
mRNA系のワクチンがドイツで開発されたのに、どうして日本ではできなかったのか?
答えは簡単で、厚労省は外国で認められたものしか認可しないから。だから日本で開発しても先に市場に投入できない。日本では新発明さえ行政の制度として遠ざけている。
ビオンテックの存在には学ぶべきことが多いように思う。

パランティアというアメリカのデータ分析企業も取り上げられている。
この企業はビンラディンの居場所を見つけたという噂がある企業である。企業側は肯定も否定もしていないが、CIAや軍関係のクライアントもいるのでまんざら嘘ではないのかもしれない。
こういう企業が急に伸びている。

グーグルの元会長のシュミットが言ったこんな言葉が出てくる。
「文明の誕生から2003年までの間に世界全体では5エクサバイトの情報が作り出されていました。今同じ量の情報が二日ごとに作られています」
1エクサバイトとは10億ギガバイト。データとして2003年までに保存できていたのはそのくらいの量かもしれない。しかし、それは人間の情報活動の今との差ではない。マンモスを仕留める情報量は多いだろう。しかし、それをデータ化してディスクに保存したりはしなかっただけのこと。今は生存に必要な情報でなくても、データ化する。この書評もそうだ。あってもなくても全く人類にとってどうでもいい情報。でも、好木陣太呂を追跡するようなことがあれば役立つ情報かもしれない。

パランティアの成長はそういう時代の変化のなかで生まれたものだろう。
もともとペイパルを立ち上げたピーター・ティールが2001年の9・11テロ事件の少し後に、ペイパルの詐欺対策アルゴリズムをテロ対策に使えるのではないかと思い、CIA傘下の企業と仕事を始めるようになった。ネットワーク上のビッグデータをどう扱うか。フェイスブックのデータをトランプの選挙に利用した疑いもこの企業に向けられたとか。

この14の企業の選択は面白い。
なかにはトタルのようなエネルギーの企業もあるし、ネットフィリックスみたいなエンターテイメント企業もある。台湾の半導体メーカーTSMCもあるし、中国のアリババもある。
当たり前だが、近未来SF小説なんかよりずっとリアルだ。