書肆じんたろ

読書は著者との対話、知りたいことのseek & find、ひとときの別世界。 真理には到達できないのに人々はそれを求め続ける。世界が何であるかの認識に近づくだけなのに。正しいことより善いことのほうがいいときもある。大切なのは知への愛なのか、痴への愛なのか。

2008年08月



この手の本で素晴らしい本にはお目にかかったことがない。この本も同類。

研修や教育の目的、目標を示し、新入社員が社会人として組織で働くことを覚えることが基本なのだ。誰が考えても同じだろう。

この本のエピソードで、著者の研修を受けた新入社員がディーラーのオープニングの時に、商品知識もない自分たちにできることは限られていると、率先して動物の着ぐるみを着たことは興味深い。新入社員は何も知らないが、自律的に考えればわかることだってあるのだ。いかに早く自律的に考えられるようになるかを援助することが大事だろう。



吉越さんの本もこれで3冊目。何が考え方のベースになっていて、どういうエピソードを話したいかがだいたいわかる。

メリタやトリンプなど外資系の会社の体験が、吉越氏の行動規範になっているようだ。フランス人の奥さんの影響も大きいのかもしれない。

仕事中は一心不乱に働き、就業時間後はゆっくり楽しむというのもわかる。でも仕事が終わったら同僚のドイツ人と毎日飲んでいたというのはどうなのだろう。吉越さんは仕事中にリラックスするので、日本では残業が多いという考え方だが、仕事で自己実現をしていると感じている人が多いから日本では残業が多いという見方もできる。こうなるといったい何のために生きているのか、何のために働くのかという哲学的な問題になる。ホワイトカラーの仕事は製造業と違って、納期やプロセスが見えにくいので、仕事に期限を設ける。プロセスを見える化するというアイデアはその通りだと思う。

あらためて読んでみると、社長はわがままでないとよい仕事はできないのだなあと思う。




仕事上のストレスがあっても、うまく処理できる人と出来ない人がいる。

「社内うつ」とは、仕事上のストレスをうまく処理できない結果であり、心理ストレス理論から説明すると「不適切なコーピングに原因するストレス反応の集積」なのだそうだ。イベント型社内ストレッサーが慢性型ストレッサーを作りだし、社内うつの原因となることもわかっている。イベント型ストレッサーとは、仕事に失敗することから転勤、昇進などの日々の出来事だ。

仕事量と裁量権の問題の解説も面白い。ストレスが多いだけではうつにはならない。仕事量が多く、裁量権が小さい仕事ほどストレスが大きいのだ。社長は仕事量も多いが裁量権も大きいので高ストレスではない。人間関係もコーピング(処理)では大事だ。職場や家族から精神的なサポートを受けている人ほどストレスの処理がうまくいく。

コーピングには問題優先型と感情優先型があるが、問題優先型にするほどストレッサー自体の解決になるのも納得できる。しかし、問題優先型のコーピングをできないときこそ、「うつ」になっているときだろう。



2010年から始まる小学校英語を考える上で、とても役に立つ本。

韓国や台湾などのアジアの状況もよく理解できる。小学校英語の導入を英語教育にとって前進と考えるなら、韓国や台湾などは日本よりずっと進んでいる。ではどうして日本で小学校英語教育が導入できなかったかというと、言語帝国主義に反対という勢力が強いだけの問題ではない。外国語を教える臨界期の問題、小学校で英語を教えることの効果が立証されていない問題や導入にあたっての教員に関する予算の問題などがあるようだ。この本はいくつかの論点を考える上で、豊富なデータや事実がよく整理されており、この種の出版物の中では群を抜いて参考になる。



小学校英語指導者認定協議会と文部科学省という小学校英語教育の導入を推進する立場の人々によるシンポジウムや講演などが収録されている。

総合学習の時間に英語が教えられるようになってから、自治体などが民間の団体や塾に頼ってきた実態もよくわかる。文部科学省がこの問題について慎重な態度をとっているのは意外だった。大学関係者では上智大学の吉田研作教授のコメントが載っているくらいだが、もう少し研究者の関与が必要ではないかと思う。

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