書肆じんたろ

読書は著者との対話、知りたいことのseek & find、ひとときの別世界。 真理には到達できないのに人々はそれを求め続ける。世界が何であるかの認識に近づくだけなのに。正しいことより善いことのほうがいいときもある。大切なのは知への愛なのか、痴への愛なのか。

2009年09月



組織行動という分野はフレームワークでちょこちょこ考えるのには向いていないのかもしれない。何よりも感情をもって動く生物を対象にするのできまった枠組みでは考えにくいのだろう。

でも『組織の心理学』にはフレームワークが満載だ。



この本は同志社のビジネススクールで田尾教授がテキストとして使っているらしい。事例の少ないコンパクトな理論書だが、組織を官僚制と対極にあるオープンシステムとして捉え、閉じたものではなく開かれたものとして、枠組みでくくるよりも例外や個別性を重視しているように思う。



田尾氏自身が述べているようにこの本はこれまでの理論的集大成として授業用にまとめられているので具体的なケースが一切なく、理論が凝縮して展開されている。読むだけでは少しわかりにくい本ともいえる。

本の中で参加の心理学を組織論に展開したリッカートの連結ピンモデルが紹介されている。部長や課長というのを連結ピンモデルで考えると、上と下の組織に挟まれ、かわいそうに見える管理職も実は情報流通と参加意識のピンとして重要な役割を果たしているのがよくわかる。


組織行動のマネジメント―入門から実践へ
ステファン・P. ロビンス
ダイヤモンド社
1997-11


欧米のビジネススクールのOBH(組織行動)の授業で最も多く使われているらしい。

テキストなので重要でまっとうなことばかりが書かれている。いちいち頷くことが多い。



とくにコンフリクトの定義もなるほどと思う。昔はコンフリクト(組織内の人と人との軋轢や摩擦)があること自体が問題だとされた。とくに官僚制組織では。それがオープンシステムになるにつれて、コンフリクトは自然な現象であり、コンフリクトは許容すべきという「人間関係的見解」になり、現在ではコンフリクトが集団を活性化し、自己批判的、創造的にするとして、コンフリクトを奨励すべきだという「相互作用的見解」に変わってきているという。

この見解によるとコンフリクトは4つの段階のプロセスがある。

第一段階:潜在的対立、第二段階:認知と個人化、第三段階:行動、第四段階:結果。

生産的な結果になるか、非生産的な結果になるかはそのプロセスでどのようにコンフリクトをコントロールするかによる。



インテルなど革新的な技術で勝負しているところが「建設的な対立」を企業風土として大事にしているのを聞いていたが、通常の組織でもコンフリクトは集団業績の向上のために奨励すべきとのこと。

そう考えると日々のコンフリクトに悩むのも楽に思える。




薄い入門書だが、内容は濃い。

巻末のケースにある「ベネッセ・コーポレーション」や「榎本氏の再就職活動」などはとても参考になる。ただ個々のケースをテキストとして扱うにはあまりにテーマが盛りだくさんすぎるように思う。特にベネッセのケースなどは少しテーマを絞って解説があればよいのにと思う。

こういうケースを読むとハーバード・ビジネス・スクールのケースはよく練られていると思う。

またMBAのHRM入門書にしては珍しく労働法の実務上の論点が整理されているところはよい。


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