書肆じんたろ

読書は著者との対話、知りたいことのseek & find、ひとときの別世界。 真理には到達できないのに人々はそれを求め続ける。世界が何であるかの認識に近づくだけなのに。正しいことより善いことのほうがいいときもある。大切なのは知への愛なのか、痴への愛なのか。

2015年08月

世の中には理解できないことが多い。
ヘイトスピーチという人種、民族差別の表現行動がどうして堂々と行われるようになったのかもそのひとつ。
この本を読むとおぼろ気ながら、その構造がわかる。
ネットの普及で不確かな情報を信じてしまうこと(在日特権など)、テレビで報道される衝撃的な事件を排外主義と結びつけてとらえる(拉致と北朝鮮、サッカーW杯での日韓対決と韓国、ISの日本人殺害とイスラム教徒)、不安や恐怖あるいは不満のはけ口として手っ取り早い行為であることなど。
差別する側に悪いことをしているという自覚がないのもこの問題の深刻なところ。
I have black friends.という差別主義者特有の言い回しがアメリカにもあるという。友達がいることで差別が無効化されるわけではない。
政治家や評論家の発言もヘイトスピーチを暗に後押ししているようだ。
安部首相はヘイトスピーチを繰り返す宮司の出版に推薦文を寄せ、竹田恒泰氏はテレビで「在特会のおかげで通名の在日特権があきらかになった」と発言する。謝罪も訂正もされない。
現在の法律では、刑法などの犯罪として捕まらない限り許される。

日本のヘイトスピーチは国連の人種差別撤廃委員会からも法整備などの勧告を受けている。
だが、今国会で審議されていた法案は採択見送りらしい。
法の対象があいまいで、憲法の表現の自由に抵触するということらしい。
こんなこと法律で取り締まるのは間違っているとも思うが、法的規制がないと暴走する世の中になってしまっているのも事実だ。

著者はPKO活動に関わり、アフガニスタンでは軍閥の武装解除の指揮もした。
自ら紛争屋を名乗っている。国際貢献の仕事ではあるが、戦争を生活の糧にしているという自戒もあると。

この本では、現在の国際紛争の現状、憲法9条の制約のもとでの日本の国際貢献のあり方を考えさせられる。
9.11から国連として介入したアフガニスタン、アメリカと連合軍が空爆したイラク。9.11で亡くなった犠牲者は約2700人だったが、アフガニスタンとイラクで亡くなった兵士は6000人以上。攻撃による一般市民の死者はイラクだけで15万人を超えている。

積極的平和主義とは何なのか?

アフガニスタンでは、掃討したタリバン、武装解除した軍閥も元通りになり、今はタリバン支配地域のほうが広い。
何のための掃討作戦、何のためのPKOだったのかわからなくなる。
非対称戦は装備だけでなく、兵士のモチベーションにも表れるという。現地人にとっては長年虐げられた先進国への恨みがある。乗り込んでいく国々の兵士には現地市民への強い恨みがあるわけでもない。

タリバンやイスラム国は秩序のない地域に入り込み、原理を浸透させ、やがて恐怖による統治を行う。
そんな地域で内戦を終息させた後、武装解除をし、新しい政権を、秩序を作る必要がある。
日本が武装解除や新政権樹立のためのPKOに寄与する可能性を著者は主張する。
ノーベル平和賞を授与するノルウエーは平和外交の交渉力に国際的な評価が高い。
戦力不保持、戦争放棄の憲法を持ち、70年間戦争をしなかった日本がそのような役割を担うこともできるのではないか。

右翼でも左翼でもほとんどの人が戦争には反対だろう。
日本はどういう軍事同盟、戦争と和平に関わるべきか、今一度考えるべきだろう。
国連も政治的なバランスが微妙になっており、PKOも軍事的になっている。
アメリカとの軍事同盟に対処する集団的自衛権ばかりを検討するのではなく、戦争を起こさせない、起きたあと国を再興する集団的安全保障の問題として考える必要がある。
今の日本にとって、戦争の火種は領土である。しかしほとんどは個別的自衛権の問題で対処できる。
戦争を防ぐために、著者は歴史問題、領土から得る利益など複雑に絡み合う国境線設定はあいまいして、共同開発、共同統治するフリーゾーンの設定を提唱している。
交渉力で竹島を取ることもできないだろうし、軍事侵攻すれば戦争になる。
そんなこと日本は望まない。
結局、買い取るか、著者の言うフリーゾーンが現実的だろう。
これも紛争屋の知恵か。

安保法制の法案を読んでみようと思ったが、このブックレットしか書店になかった。きちんと資料を整理して説明する本は案外少ない。
柳澤氏は今回の法改正で日米軍事協力の限界がなくなることを憂う。
地球の裏側に国連決議がなくても自衛隊を出動させられるということは、要するにアメリカの要請次第の軍事行動になる。現実的には軍事行動を伴うPKO出動の可能性が一番高いらしい。

でも実際に中国の軍拡や挑発行動が脅威じゃないかという人もいる。
しかし、安保上、注目されている南西諸島の領土問題は今でも入国管理法か自衛隊法で処理できるらしい。ただ自衛隊が警察権限の名目で出動すると中国は軍隊を向けてくる。そうなると戦争になる危険性があるので出動しないだけ。要するに外交や経済上の政策を優先せざるを得ないのだ。
柳澤氏は、40年の防衛官僚の経験から戦争をもっとリアルに捉えるべきことを賛成派にも反対派にも警告している。
今、先進国が戦う戦争で徴兵制は非現実的だし、集団的自衛権の限定行使で抑止力が高まるなんてこともありえない。
11本もの法案を一括で、しかもグレーゾーン事態、重要影響事態、集団的自衛権、国際平和秩序維持という重要なテーマを短期間で審議するのはもともと無理な計画なのだろう。
本当は今回の国会ではPKO関連と周辺事態関連だけ野党も対案を出して審議するのが一番いいのだろう。
でも支持率低下作戦のために民主党は対案を出さないだろうし、自民党も今さら引き下がれない。
結局、法案は通るだろう。解釈改憲でないと首相は言うが、法解釈では政府見解は条件付きで変更されたことになる。
せめて派遣される自衛隊員には誇りを持って任務にあたれるように残りの国会で審議してほしい。



この本を読むとNHKの大河ドラマが時代考証に基づいて史実に忠実に作られているように思う。

もちろん、昔、この時代考証に関わった研究者に聞くと、文書などがあるものについては忠実に作るが、何もないところについてはフィクションとして結構大胆に台詞なんかもつくっているようだ。
当たり前と言えば当たり前だ。あくまでドラマだ。

今でもテロリストと呼ばれる松蔭だが、頭がよくて誰よりも熱い人だったんだと思う。

そうでなければ何の得にもならない行動にどうして付いていったり、教えに従ったりするものか。

ある意味、カルト教団の教祖のように思われていたのかもしれない。

『花燃ゆ』の主人公である妹の文の器量がよくなかったとのも事実のようだ。でも二度もいい男と結婚している。

文もまた人を惹きつける魅力があったのかもしれない。

歴史は細部も不思議なことで彩られている。

日米同盟vs.中国・北朝鮮 (文春新書)
リチャード・L・アーミテージ
文藝春秋
2010-12-15


ブッシュ共和党政権、クリントン民主党政権でそれぞれ対日政策に深く関与し、今なお影響力を持つ二巨頭との刺激的な座談会である。5年前の本だが、安保法制の問題との関わりだけでなく、今の日本の政治状況について考えさせられた。

この本のなかでアーミテージ氏は日米同盟を進展させるために、集団的自衛権の行使、解釈改憲が重要であることを指摘している。そうなっても実態としては今のソマリア沖で各国が共同で海賊対策を行っているのと変わりがないとも。
しかし、この改革は、日本が中国、韓国など周辺諸国との良好な関係のもとで可能になるので、先の戦争を反省することが大事で、日本の一部に歴史修正主義が起きていることへの危惧も述べている。

アメリカの戦略上、一番大事なのは日本に米軍基地があること、とくに沖縄に米軍海兵隊がいることが地政学上重要らしい。それは日本にとっても他国から攻撃されない抑止力となることを説いている。抑止力のために日本が核武装する必要などない。
アメリカは、戦後の状況変化のもとで日本に再軍備させる必要があったが、軍備で自立することは望んでいない。
アメリカのプレゼンス低下はあるが、その構図は変わっていない。

アーミテージとナイは核なき世界への視点などで多少の違いはあるが、対日政策ではほとんど一致している。
この本が出版されてから、世界情勢の変化もあった。ISの問題があり、中国の拡張政策、北朝鮮の世襲などがあった。沖縄問題も混迷を極めている。
鳩山元首相が沖縄基地を国外移設すると述べたことや、小沢一郎氏がアメリカを飛び越して、中国に近づいたことはアメリカから見れば日米同盟のとんでもない認識違いということがわかる。
アーミテージが日本の憲法9条を軽視しているという批判もあるだろう。
しかし、その前に現にある米軍基地はなぜそこにあるのかを、世界軍事戦略、日本とアジアのあり方の視点からも考える必要があるだろう。今やアメリカもアジアで無益な戦争を望んでいないし、コストのかかる核兵器は減らしたい。この本でそのこともわかる。

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