書肆じんたろ

読書は著者との対話、知りたいことのseek & find、ひとときの別世界。 真理には到達できないのに人々はそれを求め続ける。世界が何であるかの認識に近づくだけなのに。正しいことより善いことのほうがいいときもある。大切なのは知への愛なのか、痴への愛なのか。

2015年10月



この本で日本の軍事のあり方、抑止力、周辺諸国との歴史認識問題などの疑問が氷解した。

著者は自衛隊に入庁し、防衛庁の中枢でイラク派遣にも関わっている。イラクで誰も殺さなかったことを誇りに思っている。イラクで自衛隊の犠牲者を出す覚悟はなかったとも書いている。ひ弱な防衛庁幹部ともいえる。

戦わずして勝つ。本当の意味がわかったように思う。

抑止力には、報復的抑止力(やられたらやりかえす本土破壊よる抑止)、拒否的抑止力(これ以上は攻めさせないという局地戦争を想定する抑止)という考え方がある。

日本の抑止力を考える上で、米軍との同盟、米軍基地の存在、自衛隊の役割はどうあるべきかを考える必要がある。

防衛庁OBでも尊敬できる人はいるんだ。本当は自衛隊や軍隊の隊員が尊敬される、そんな国にしないといけない。70年間戦争をしなかった日本はそんな国になる資格がある。そう思った。



反知性主義とは、実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度と佐藤優氏は定義する。

反知性主義者は、新しい知見や他者との関係性を直視しながら自身と世界を見直していく作業を拒み、「自分に都合のよい物語」の中で生活している。こういう反知性主義者が問題を引き起こすのは、その物語を使うものがときに「他者への何らかの行動を強要する」からだ。

反知性主義者を啓蒙によって転向させることは困難だ。知性の力によって、反知性主義者を包囲していくというのが、佐藤優氏の考える方策だという。

いつものようにいくつかお勧めの本の紹介もある。

反知性主義について、本を書こうという着想を佐藤氏が得たのは、麻生財務大臣が「憲法改正はナチスの手口に学べ」のような発言をしたニュースかららしい。その言葉から世の中の危ない思考を感じ取って、この本の構成を考えたのだから知の怪物ははやりすごい。

ISISから安保法制、辺野古という時事問題。マルクス、ピケティ、宇野弘蔵、柄谷行人とその論ずる対象は幅広い。

佐藤氏は自ら反知性主義に陥らない方法として、三つのことを勧めている。

自分を取り巻く社会的状況を言語化すること

他人の気持ちになって考えること

話し言葉でなく、書き言葉思考を身につけること

歴史修正主義、在日外国人排外主義が広がる今の世の中で参考になる一冊だ。



G型、L型の経済って言い得て妙。

ベストセラーのドッキング。

けっこうおもしろい。

アメリカの大学で生涯学習の拠点になっている例を冨山氏が紹介している。こういうのが、文部科学省の政策になったりする。



世の中には理解できないことが多い。

ヘイトスピーチという人種、民族差別の表現行動がどうして堂々と行われるようになったのかもそのひとつ。

この本を読むとおぼろ気ながら、その構造がわかる。

ネットの普及で不確かな情報を信じてしまうこと(在日特権など)、テレビで報道される衝撃的な事件を排外主義と結びつけてとらえる(拉致と北朝鮮、サッカーW杯での日韓対決と韓国、ISの日本人殺害とイスラム教徒)、不安や恐怖あるいは不満のはけ口として手っ取り早い行為であることなど。

差別する側に悪いことをしているという自覚がないのもこの問題の深刻なところ。

I have black friends.という差別主義者特有の言い回しがアメリカにもあるという。友達がいることで差別が無効化されるわけではない。

政治家や評論家の発言もヘイトスピーチを暗に後押ししているようだ。

安部首相はヘイトスピーチを繰り返す宮司の出版に推薦文を寄せ、竹田恒泰氏はテレビで「在特会のおかげで通名の在日特権があきらかになった」と発言する。謝罪も訂正もされない。

現在の法律では、刑法などの犯罪として捕まらない限り許される。

日本のヘイトスピーチは国連の人種差別撤廃委員会からも法整備などの勧告を受けている。

だが、今国会で審議されていた法案は採択見送りらしい。

法の対象があいまいで、憲法の表現の自由に抵触するということらしい。

こんなこと法律で取り締まるのは間違っているとも思うが、法的規制がないと暴走する世の中になってしまっているのも事実だ。



在特会のヘイトスピーチに対抗する勢力はカウンター勢力と呼ばれているらしい。

「レイシストをしばき隊」はツイッターで呼びかけて集まった有志。在特会の「お散歩」と呼ばれる無許可のいやがらせデモを体を張って阻止する。在特会とのいざこざで、ともに逮捕されたこともある。「プラカ隊」と呼ばれるプラカードを掲げる集団もいる。「お知らせ隊」は界隈にデモを知らせる部隊。ほかにも「ダンマク隊」という横断幕を掲げる部隊もある。

カウンター勢力への賛否はある。しかし、現実に在特会のデモのために新大久保で3割売り上げが減ったという商店主もいる。鶴橋では14歳の少女が「朝鮮人を虐殺したい」とスピーチするまでエスカレートした。この少女は在特会の会長の娘だったらしい。在特会の二世被害問題もあるのだろう。

いまだに法規制されないヘイトスピーチを野放しにしないために、カウンター勢力は在特会がやっているのと同じ方法で対抗するという集団だ。必要悪とみなすべきかどうかはわからない。だが、法を犯さないかぎり許容されるべきだろう。在特会のヘイトスピーチがなくなれば消える社会現象とも言える。

有田氏は国会議員としてヘイトスピーチ対策に取り組んでおり、この本は2011年から2013年までの記録になっている。民主党は先の国会にヘイトスピーチ禁止法案を提出した。しかし憲法の表現の自由との抵触が危惧され、継続審議になっている。

この本では、ドイツ、イギリス、オーストラリア、カナダなどのヘイトスピーチ禁止法も紹介されている。ドイツはナチズムによるユダヤ人迫害への反省、カナダとオーストラリアは多文化主義のもとでマイノリティの保護が必要という事情があった。イギリスも人種差別禁止を早くから取り組み、表現の自由も保護しながら法律での規制を行っている。移民の増加のもとでネオナチズムなど新右翼の台頭という世界的な事情も背景にある。

アメリカは表現の自由との問題で一旦各州で成立させた法案を廃止させた。しかしヘイトクラム法があり、人種差別を厳しく罰している。

日本は国連の人種差別撤廃委員会からもヘイトスピーチ規制の勧告を受けている。

表現の自由は大事だが、何らかの法整備が必要だろう。

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