約束された場所で (underground2)
村上 春樹
文藝春秋
2001-07-01


「オウム事件の最大の教訓は、人間というのは結構もろくて、色々なタイミングや条件が整うとあのようなとんでもないところに平気でいってしまう」と江川紹子氏が言っている。
「だから高校の現代社会や保健体育、青少年の心と身体を学ぶ機会に、そういうことを伝えていくことが大事」とも。
江川紹子氏の裁判記録で、実行犯になった信者のことがわかる。
専門知識やコミュニケーション能力、美貌とかで優れている人々が多い。
霊感があったりする人もいるけど、心身のどこかに不調があったり、家族関係がうまくいかなかったり、世の中の価値観に馴染めない人々ってのは共通する。そこにカルトの勧誘があれば、だんだん近づいていく。
やがて麻原彰晃の世界観の実現のために選ばれた人々が罪を犯す。
村上春樹『約束された場所で』では、そっちに行かなかった信者のことがわかる。「いいひと」が多いのもオウム真理教の信者の共通点。 村上春樹『アンダーグラウンド』に出てくる地下鉄サリン事件の被害者は早朝から電車通勤・通学する真面目な人々。 信者とふつうの人々にあまり違いがないこともわかる。
オウムには出家したけど、実行犯にならなかったのは、教団の闇の部分を知らされていなかっただけの人々。カルト教団に入らないこと、入っても犯罪を起こさないこと。
どうすればいいのか、とても難しい。
村上春樹『約束された場所で』で村上春樹と河合隼雄が対談している。
大事なのは、どこにいても個を強くすること、と村上春樹は言う。世の中は矛盾だらけだとどこかであきらめること、と河合隼雄は言う。
ユートピアなんてない! だけど自分なりに真面目に生きていく、って思ってことかな。