この本の『憂国』だけを読んだ。

一切の批判を拒絶するくらいの迫力がこの小説にはある。
『憂国』は三島由紀夫が、昭和35年に発表した短編だ。
二・二六事件で決起した皇軍に、新婚のため誘われなかった主人公とその妻の自害の話である。
自害の前の性交渉。三島はそれを限りなく美しい比喩、修辞、回想を織り交ぜながら表現する。死を前にした官能。死の絶頂と性交渉の絶頂を一致させように三島は描く。
フィクション。すべてフィクション。リアルさが微塵もない。
そういう批判の一切を拒絶する力がこの小説にはある。
壮絶。
そう、壮絶なのだ。壮絶さが一切を拒否するのだ。
それは二・二六事件がもっている死相なのかもしれない。
でもエロい。限りなくこの小説はエロい。
リアルさがないのにエロい。
とことんマジメにエロい。